No.81 2001/02/11
団子運転
エレベーターを待っているが、なかなか来ない。やっと来たと思ったら2台同時。「2台来てくれなくてもいい。1台でいいからもっと早く来てくれよ!」――そんな経験のある人は多いと思います。
これは、乗り降りする人が多い時に起こりやすい団子運転現象です。初めは2台のエレベーターが距離をおいて動いていても、先に着いたエレベーターで多くの人が乗り降りするため停止時間が長くなり、やがて後続のエレベーターが追いついてしまいます。そして、後続のエレベーターが追い越したとしても、今度は、先行になったそのエレベーターが次の停止階で多くの人の乗り降りのために長く停止することになり、先ほど追い越されたエレベーターがまた追いついてしまいます。かくして、2台のエレベーターの距離はなかなか広がらないという状況、つまり団子運転になってしまうのです。
「2台あるんだから、片方を早く来させるようにしろよ!」と、運行制御システムを作ったメーカーに文句を言いたくなる人もいるでしょう。それに応えるためには、先行しているエレベーターが混雑した状況のまま、すいている後続のエレベーターを、途中の階で待っている人の要求を無視して通過させてしまうという方法が考えられます。そうして早く来たエレベーターに乗れた人はそれで幸せでしょうが、通過された階で乗りきれなかった人は不幸せです。全体の幸せを考えた運行制御は、実は非常にむずかしいことなのです(最近のエレベーターの運行制御はかなり巧みになっているかもしれませんが)。
このような団子運転は、大都市圏でのラッシュ時にも起こります。電車が少しでも遅れると、次の駅で待っている乗客がそれだけ増えるので、乗り降りに時間がかかってますます遅れが増幅され、その結果後続の電車が追いついてしまい、団子運転に陥ってしまいます。鉄道会社は、それを避けるためにさまざまな策をとっています。それは、個々の乗客にとっては非情ともいえる策です。
まず、発車時刻になったら、その電車に乗ろうと懸命に走って来る乗客がいても容赦なくドアを閉めてしまうことです。私が通勤に使っているJR京浜東北・根岸線では、無理に駆け込もうとした乗客が腕をドアに挟んだくらいではドアを再び開けてはくれません。その乗客があきらめて腕を引き抜くまで待ちます。そのためにかえって遅れるかもしれませんが、ドアを開けて乗せてやれば乗客はつけあがり、次にまた同じことをやるでしょう。そうさせないための策なのだろうと私は思っています。
それと、後続の電車に遅れが生じた時にわざと発車を遅らせることです。定刻どおりに発車しては、遅れて来る後続の電車に乗る乗客が多くなり、後続の電車がますます遅れてしまうので、その駅でなるべく多くの乗客を乗せてから発車するのです。「この電車は遅れていないかったのに、なぜここでわざわざ遅らせるんだ!」と腹が立つ人もいるでしょうが、全体の運行を考えればやむを得ないことです。
自分のことだけを考えていれば、団子運転のエレベーターに腹が立つでしょう。そんな時は、全体のことを考えてみてください。途中の階の人が置き去りにされてでも自分が早く乗れればよいと思いますか?
また、自分のことだけを考えていれば、電車のドアが目の前で閉じた時や、先行でなく後続の電車の遅れで発車が遅れた時には腹が立つでしょう。そんな時は、鉄道運行者の立場を想像してみてください。後続の電車に乗る多くの乗客に遅れをこうむらせてでも、あなただけを早く運んでくれることが公正なサービスだと思いますか?
そんな発想をしてみれば、少しくらいの待ち時間にいらいらせず、心にゆとりを持てるのではないでしょうか。
「駆け込み乗車はおやめください。」