掲示板でこんな質問をいただきました。
ウェブのアドレスの指定で「www.」を省略してもアクセスできるサイトと、省略するとつながらないサイトがあるのはなぜ?
Gabacho-Netのアドレス
http://www.gabacho-unet.ocn.ne.jp/
http://www.gabacho-net.jp/
は共に、「www.」が省略可能になっています。一方、たとえばNHKのアドレス
http://www.nhk.or.jp/
の場合は、「www.」を省略するとつながりません(2001年7月時点の調査による)。一般に、大規模なドメインでは「www.」を省略できないことが多く、小規模なドメインやウェブの発信を主目的とするドメインでは「www.」が省略可能、あるいは初めから「www.」を付けないアドレスを公表していることが多いのです。それがなぜかということについては、疑問に思う方がほかにもおられるだろうと思うので、ここで解説しましょう。
この疑問に答える前に、まず、インターネットではどのように通信が行われているかを知っておいていただく必要があります。
インターネットにつながるすべてのコンピュータは、データをパケット(小包の意味)という有限の長さのメッセージに区切ってやり取りします。パケットをどのコンピュータへ送るのかを指定するのは、IP(インターネットプロトコル)アドレスという番号です。実際、IPアドレスを指定してウェブにアクセスすることもできます。試しにブラウザのアドレス欄に
http://210.248.94.226/
と指定してみてください。
Gabacho-Netのホームページが出ます。インターネットを電話網、コンピュータを電話機にたとえるなら、IPアドレスは電話番号のようなものです。
しかし、電話番号を覚えておくのはめんどうです。最近の携帯電話やPHSが持っているような電話帳機能を使って名前で相手を識別できた方が便利だということはおわかりいただけるでしょう。同様に、「
Gabacho-NetのウェブサーバのIPアドレスは210.248.94.226」と覚えておくのは大変です。そこで、「www.gabacho-net.jp」のような名前が使われます。「www」は
ホスト名(ホストとは、ネットワークにつながるコンピュータなどの装置の総称です)、「gabacho-net.jp」は、そのホストがどのネットワーク領域(ドメイン)に属するかを識別する
ドメイン名です。「www.gabacho-net.jp」のようにホスト名から最上位のドメイン名までを記述した名前を
FQDN(Fully Qualified Domain Name:完全修飾ドメイン名)といいます(慣習的に、これの意味で単にドメイン名ということもあります)。
IPアドレスの代わりにFQDNを使うことによって、人間にとってはアクセス先のコンピュータを指定しやすくなります。しかし、コンピュータが通信するのに必要なのはIPアドレスです。そこで、電話番号案内のようにFQDNからIPアドレスを教えてくれる仕組みがインターネットにはあります。それを
DNS(ドメインネームシステム)といいます。
Windowsをお使いの方は、「TCP/IPのプロパティ」の設定項目に「DNSサーバ」があることをご存じでしょう。最近ではこれは自動的に設定されることが多いので、あまり意識していない人が多いと思いますが、プロバイダに接続する場合は、そのプロバイダのDNSサーバのIPアドレスが設定されます。このDNSサーバが、あなたのパソコンにいろんなコンピュータのIPアドレスを教えてくれる番号案内係です。
ところが、あなたのプロバイダのDNSサーバは、全世界のありとあらゆるコンピュータの番号を知っているわけではありません。番号情報は分散管理されています。たとえば「gabacho-unet.ocn.ne.jp」ドメインの番号案内係はOCNにいます。
Gabacho-Netのもう一つのドメイン「gabacho-net.jp」の番号案内係は、私のサーバ自身が務めています。「nhk.or.jp」ドメインの番号案内係は、NHKで管理されています。
あなたがパソコンのブラウザでどこかのウェブサイトのFQDNを指定した時、パソコンは、プロバイダのDNSサーバに、そのFQDNに対応するIPアドレスを教えてくれと要求します。プロバイダのDNSサーバは、決められた手順に従って目的のドメインの番号案内係を探し出し、そこから教えてもらったIPアドレスをあなたのパソコンに回答します。そうすると、それ以後、あなたのパソコンは、教えてもらったIPアドレスに向けて通信を開始します。目的サイトの名前を指定すればそこにアクセスできるのは、こういう仕組みによるものなのです。
さて、本題に戻りましょう。
「www.」を省略してもアクセスできるサイトとそうでないサイトがあるのはなぜか。それは、そのドメインの番号案内係が、「www.」を省略したドメイン名のみの名前に対してIPアドレスを答えるかどうかの違いなのです。
「gabacho-unet.ocn.ne.jp」ドメインについては、OCNの番号案内係が、このドメイン名のみの名前に対してIPアドレスを答えます。何のIPアドレスかというと、私の
メールサーバのです。
「…@gabacho-unet.ocn.ne.jp」というホスト名省略のメールアドレスに宛てられたメールを私のメールサーバが確実に受け取れるための安全策として、OCNではユーザードメインについてそのような設定をしているのです。その結果として、私のサイトのウェブには、「www.」を省略してもアクセスできることになるのです。それは、私のサイトでは
メールサーバとウェブサーバが同じマシンだからです。私が新たに取得した「gabacho-net.jp」ドメインでも、私は同様な設定をしています。
一方、NHKなどのような大規模ドメインでは、メールサーバとウェブサーバを別々のマシンにしているのが普通です。組織が大規模で通信量が多い場合は、サービスごとにマシンを分けた方が安全なのです。したがって、「nhk.or.jpのIPアドレスを教えてください」と言われても、「どのサービスにアクセスなさりたいのかわからないのでお答えできません」ということになるのです。電話番号案内にたとえれば、「NHKの電話番号を教えてください」と問い合わせても「NHKのどの係かをご指定いただかないと」ということになるようなものです。
最近では、小規模ドメインや、ウェブ発信を主目的とするドメインが増えているので、「www.」が省略可能、あるいは付かないウェブアドレスが増えつつあるようです。しかし、それが昨今のはやりだと思って「我が社でも『www.』を省略可能にしろ」と言うのは、時としてネットワーク管理者に対する無理難題になりかねないので、気を付けてください。
「www.」を省略可能にしようとすれば、「
組織ドメイン名.jp」のようなホスト名省略のドメイン名に対応してウェブサーバのIPアドレスを答えるようにしておく必要があります。そうすると、そのウェブサーバにメールアクセスが来る可能性があります。通常、ドメイン名(ホスト名省略)を宛先とするメールの送り先を知るにはDNSでMX(Mail eXchanger:メール交換機)というアドレス情報の問い合わせをするのですが、万一それに失敗した場合、ドメイン名のIPアドレスに向けてメール送信を強行しようとするメールサーバがあるからです。そのようなメールも受け取れるようにしようとするなら、ウェブサーバでメールサービスも動かしておく必要があります。
一方、ドメイン名のIPアドレスの問い合わせに対してメールサーバのIPアドレスを答えるようにしておき、そのメールサーバにウェブアクセスがあった時には、正規のウェブサーバへジャンプさせるMETAタグを返すという方法も考えられます。そのためには、メールサーバでウェブサービスも動かしておかなければなりません。
いずれにしても、メールサービスまたはウェブサービスを複数のマシンで動かしておく必要が生じます。サーバというものは、一度設定したら電源を入れたままほったらかしておけばよいというものではなく、動作を日々チェックしなければならず、また、セキュリティホールをふさぐためのバージョンアップも必要です。サービスプログラムを動かすマシンが増えれば、それだけ手間(つまり人的コスト)が増えるのです。
要望を出すのはけっこうですが、そのためのコスト増加についてネットワーク管理者が説明することにはちゃんと耳を傾けてください。地位の高い人が、技術をよく知らないのに思い付きで要求をごり押しして、それでネットワーク管理者が苦労するというケースはけっこうあるものなのです。