インターネットアーカイブサービスが公開されました(日本でのニュースリリースは
こちら)。米国議会図書館やスミソニアン博物館などの機関も協力したもので、1996年以降の100億ページものウェブページが保管されているそうです。
Gabacho-Netの過去のページも検索できました。
私は、これを知ってびっくりしました。インターネットアーカイブサービスがやっていることは、あらゆるウェブページをその著作者に断りなく自分のサイトにコピーしてそれを公開することです。これがなぜ著作権侵害にならないのでしょうか。
インターネットアーカイブサービスでは、「
著作権ポリシー」を次のように説明しています。
インターネットアーカイブは、他者の知的財産権およびその他の所有権を尊重します。インターネットアーカイブは、場合によっては、他人の著作権またはその他の知的財産権を侵害するコンテンツを削除するかまたはアクセス不可にすることがあります。もしあなたの著作権が、インターネットアーカイブが提供する資料によって侵害されていると判断されるならば、以下の情報を著作権係に提示してください。
- 侵害されたとするあなたの著作物の識別番号
- 侵害しているとする資料の、インターネットアーカイブの中の場所の正確な記述
- あなたの住所、電話番号、および電子メールアドレス
- 争点となっている利用が著作権者、その代理人、または法律のいずれによっても承認されていないことの誓約
- あなたが認識する上記の情報が正当であること、およびあなたが本件の著作権の所有者またはその代理として行動することを承認された人であることの誓約
- あなたの電子的または物理的署名
また、
著作権に関するFAQではこう述べています。
著作権に違反していませんか?
いいえ。図書館のコレクションのように、我々のコレクションは公開されたコンテンツから成ります。しかも、我々のウェブコレクション(Wayback Machine)は、無料で、かつパスワードも特権もなしに入手できたページのみを含んでいます。また、インターネット文書の著者は、望むならば、http://www.archive.org/internet/remove.htmlで文書をWayback Machineから削除できます。
私は、今までに著作権に関するインターネット上でのいろんな議論を見た経験や日本の
著作権法を読んだ知識からは、このポリシーでインターネットアーカイブがすべての著作権条約締結国(もちろん日本やアメリカを含む)の著作権法を遵守しているとは理解できません。
とはいえ、私は法律の専門家ではありません(だからこそインターネット活動では“合法であると確信できないことはしない”ように気を付けているのですが)。ですから、インターネットアーカイブが合法であることの法的根拠を知らないだけかもしれません。また、私は著作権至上主義者でもありません。情報の著作者と利用者の利益のバランスについての考え方は時代とともに変わるのが当然ですから、今の著作権法が理想的なものとも思いません。「
著作権至上主義が文化の衰退をもたらす」という意見にも一理あると思いますし、インターネットアーカイブが情報の利用者にもたらす利益が大きなものであろうことも認めます。そして、“グレーゾーン”に踏み込む人たちが世の中の変化に貢献していることも認めます。
しかし、私は、情報を無償で公開するウェブサイトオーナーや、情報を入手する社会の人々がインターネットアーカイブによってこうむるかもしれない不利益の可能性を指摘しておきたいと思います。
- 違法なコンテンツや名誉毀損のコンテンツがプロバイダの権限で削除されても、インターネットアーカイブに残る可能性があります。それが入手可能であり続けることによって、社会にもたらされる弊害が継続するおそれがあります。
- ウェブサイトオーナーが、自分が発信した情報の誤りを認めてそれを削除しても、インターネットアーカイブに残る可能性があります。それは、誤った情報による社会の不利益や、それを発信してしまった人自身の不名誉という不利益がいつまでも残ることにつながります。
- ウェブサイトオーナーが人生の転機で自分の過去を清算したいと思ってウェブサイトを閉鎖しても、インターネットアーカイブに情報が残り、その後も社会の人々がその人の過去を知ることができてしまう可能性があります。それは、その人が望まない事態です。
- インターネットアーカイブが提供する資料によって著作権が侵害されたと判断した人は、アメリカの法律に基づいてインターネットアーカイブに異議申し立てをしなければなりません。つまり、アメリカの機関がアメリカ以外の人にまでその人の許可を得ずに及ぼしている行為によって被害を受けた人は、被害からの回復のためによけいな労力を強いられることになります。
- ウェブサイトオーナーがインターネットアーカイブで自分のコンテンツをいっさい公開しないように登録操作をすることはできます。しかし、英語に慣れていない人にとっては容易なことではありません。しかも、自分のサーバにrobots.txtファイルを置くことによって「自動検索ロボットお断り」の設定をしなければなりません。
- インターネットアーカイブが合法であるなら、今後、同様のサービスサイトが無数にできる可能性があります。情報がインターネットに残ることを望まない人にとっては、防衛のための労力は大変なものになります。
このように、著作権問題を別としても、インターネットアーカイブはさまざまな問題を引き起こす可能性があります。今後、どんな論議が巻き起こるでしょうか。
このような問題を避けるには、皆さん一人一人がこのようなサービスサイトの存在を知って、自分の身を守るすべを自分で考えて行動するしかありません。インターネット技術の専門家としての私がそのためにお手伝いできることがあればしたいと思っています。